二年ほど前に空家火災が中之島であった時に、防火水槽と筒先までの位置が大きく離れていて、こまめに連絡を取り合う必要があるポンプ操作の団員と筒先を握っている団員との連絡手段が携帯電話だけで難儀した経験があり、トランシーバーが必要であるという話や、大規模災害に対応した避難において携帯電話に頼った島内の通信手段の脆弱性をなんとかしろという話が、各島の消防団から上がってたのだけれど、ようやく予算が付いて十島村各島の消防団に5台ずつのトランシーバが配布された。
意外と迅速な対応だったので有り難いのだが、要求を上げた時点では「ポンプと筒先の間」での通話を考えていて、一般業務用・レジャー用に売られている「特定小電力無線(トランシーバ)」が支給されるものだと思っていた。だが実際に来たのは「デジタル簡易無線(登録局)」の規格になるトランシーバで、特定小電力無線よりも大出力で高性能な代物。(なおデジタル簡易無線には業務用の「免許局」もあるが、今回導入されたのはホビー用途も含まれる「登録局」)
違いはこんな感じになる。
送信出力
特定小電力無線 10mW(ミリワット) = 0.01W
デジタル簡易無線 1〜5W(ワット)
当然にワット数が大きい方が電波が強力で遠くまで飛び、通信距離が長い。比べると100倍から500倍の出力差がある。もっとも100倍高出力だから100倍遠くまで届くというわけではないが。
ただ、残念ながら支給されたトランシーバーはアイコムのIC-DPR3で、これは最大出力1Wの機械。5Wを求めるとこれの上位機になるIC-DPR6が必要。定価が一万くらい高く、全島で35台分整備するので安い方の機械になったのだと思うが、もうちょっと頑張っとけよというのが率直な感想。
まぁ、出力の大きい無線機の方が電力消費が大きいので電池の持ちが悪いというデメリットはあるので、小出力機が常にダメだということにもならないのではあるけれども。(特定小電力トランシーバは多くが乾電池駆動だが電池の持ちはすごく良いみたいである)
チャンネル数
特定小電力無線 20チャンネル (中継機能がある製品は47chのものもある)
デジタル簡易無線 30チャンネル
チャンネル数は多いほうが良いのだろうけれど、十島村では混信するほど通信相手がいないので、極端な話をすれば1チャンネルでも間に合いそう。 中之島分団ではch1で固定運用することにしてる。
マニュアルやyoutubeなどにある「トランシーバーの正しい使い方」的な動画を見てると「自分の使いたいチャンネルが空いているかどうかを確認してから使いましょう」となってて、電波の利用者が多いところでは空いているチャンネルを選んで譲り合って使う必要があるのだけれど、過疎の離島は電波的にも過疎なので、意図せずに他所の交信に割り込む心配がないのは有り難いとは言えるかも。
アンテナ交換
特定小電力無線 交換不可
デジタル簡易無線 交換可能(技適を取得した製品のみ)
これは出力の大きさとともにデジタル簡易無線の有利なところで、純正で付いてくる利得の低いアンテナ(その代わりコンパクトで取り回しが良い)を利得の大きいアンテナに変更することで交信距離を大きく伸ばせる。
アイコムの資料だと純正アンテナの利得が2.15dBiで、これを十二素子八木アンテナ(大きいので移動できないがw)に替えると利得は実に14.15dBiとなり、dBは3上がるとエネルギーは大体二倍になるから、実に8倍の利得を稼げるのである。
支給されたトランシーバには純正品のロングアンテナが別途に付いていて、これは多分販売時に付いているショートアンテナよりも利得が大きいはずなのだが、昨日実施した防災訓練では能力が追いつかず、前もって実施していた通信試験の結果、一箇所で済むはずと考えていた中継地点では交信が安定せず、臨時に中継地点をもう一箇所増やすことになってしまった。
訓練の反省会では「やっぱ1Wじゃダメだわ、5Wのトランシーバくれよ!!」と文句を言ったのだが、まあ予算もあることなので導入されたとしてもある程度先の話になるのはやむを得ない。
その間に可能な対策としては比較的安上がりに可能なアンテナ交換であるので、試験用にとりあえずこれ買ってくれとゴネようと思っている。 ダイヤモンドアンテナ SRH350DH
これ、利得は2.15dBiで純正アンテナと同じなんだけど、1/2λの長いアンテナなのが有利なのか「よく飛ぶ」と評判が良いらしい。
免許・電波利用料等
特定小電力無線 登録不要 電波利用料不要
デジタル簡易無線 登録あり 登録料・電波使用料(年間)必要
トランシーバ本体を買えば、後は何も必要でないのが特定小電力無線。色々面倒で金もかかるのがデジタル簡易無線ということになるが、性能差を考えればしょうがないのかも。